INTEL BUYS HABANA LABS

Posted on January 23, 2020

インテル、ハバナ・ラボを買収
20191222
インテルは12月16日、起業3年目のイスラエル新興企業ハバナ・ラボ (Habana Labs) を20億ドルの現金で買収することに同意したと発表した。
これは「またイスラエル新興企業がもうひとつイグジットした」という月並みな出来事ではない。このイグジットが意味するものは国内だけにとどまらず、国際的なレベルでも広く影響を与えることになる上、イスラエルのテクノロジー部門に見られる重要トレンドを複数示している。
この記事では、二社についての主な企業情報をご紹介するほか、今回の買収がなぜそんなに重要なものなのかをまとめてみたい。
今回の取引について

  1. 誰が誰を買収したのか

買収側

  • 本拠をカリフォルニアに置くインテル株式会社は、イスラエルにおいて最大で、最も重要な多国籍投資企業。1974年以来の推定投資額は350億ドルである。
  • イスラエルの研究開発センターはここ数十年、同社の主要チップのほとんどを開発し、同じくイスラエルの製造工場は毎年数十億ドル相当のエレクトロニクス製品を輸出している。
  • イスラエルのインテル従業員数は現在約12,000人である。
  • 2017年インテルは、自律性走行車向けのソフトウェアを開発するイスラエルの新興企業モービルアイ (Mobileye) を買収した。買収金額も153億ドルと、外国企業によるイスラエル企業買収で過去最高の価格となった。

被買収側

  • ハバナ・ラボは2016年にダビッド・ダハンとラン・ハルッツにより設立。
  • 二者は長く大成功を収めてきた連続起業家アビグドール・ウィレンスキーに「エンジェル投資家」として資金と助言を求めた。ウィレンスキーは投資に同意し、会長として最終的にインテルとの買収交渉に臨んだ。
  • ハバナ・ラボは、人工知能 (AI) 分野でプロセッサとチップを開発・販売。同社の最初の製品は2018年以来、世界中で販売されており、2番目の製品は今年から発売が開始された。
  • イスラエルはカイザリアにある本社のほか、さらにカリフォルニアとポーランドにも研究開発センターを構え、中国にある営業所も含めて、ハバナ・ラボには世界各地で約150人の社員がいる。
  • ハバナ・ラボはこれまでに12,000万ドルの資金を調達している。201811月、同社の投資部門インテル・キャピタル率いるもっとも最近の資金調達ラウンドでは7,500万ドルの調達を収めた。

 取引はいくらで設立したのか
 インテルは現金による20億ドルの売却額支払いに同意し、これまででイスラエル最大の全額現金取引となった。資金調達の最終ラウンドに参加したものも含め、投資家のすべてが非常に大きな利益を上げることとなる。

  • 合計金額の約半分が、ウィレンスキーと彼の個人投資家グループを含む創業者、そして社員の間で分配される。
  • 約35%が、ベッセマー・ベンチャー・パートナー、WRVキャピタル、インテル・キャピタルのベンチャーキャピタルファンドにそれぞれ15%、10%、10%の割合で支払われる。
  • ハバナ・ラボの株式のさらに15%は、サムスンやシスコを含む企業投資家、バッテリー・ベンチャーズなどのファンド、および民間投資家が所有している。

なぜ買収に踏み切ったのか
インテルの動機
インテルは最近、AI部門で一連の買収を行った。急成長を続け、市場規模が2024年までに250億ドルに達すると推定されるAI市場で、業界リーダーのインヴィディア (Invidia) に追いつき、自らリーダー的な立場を確保するのがねらいだ。
インヴィディアは今年の初め、イスラエルのAIチップ開発会社メラノックス (Mellanox) の買収争いでインテルを破って69億ドルを支払い、イスラエル最大の取引のひとつを記録した。インテルは、同社のニーズに合った製品を開発している若く実績ある企業を購入するチャンスをもうこれ以上逃す余裕はないと判断したらしい。

  • ハバナ・ラボの動機

ウィレンスキーは大企業嫌いで知られているが、ブロードコム (Broadcom)、アマゾン (Amazon)、そして今回のインテル相手にと、過去20年の間新興企業を着実に売却してきた。ハバナ・ラボは今回の買収で一躍大リーグの仲間入りをし、これから先インテルの技術的、財政的、経営的資源の恩恵に与るわけだが、独自のアイデンティティとイスラエルを活動の場にすることは維持し続ける。(ただしウィレンスキーは一定期間の後、ハバナ・ラボ専属からハバナ・ラボとインテル両社の「特別顧問」に就任する)。
広い意味合いを解く

  1. インテル・イスラエル

関与のあり方にも違いがあることを比喩的に示す、「めんどりと豚」という寓話をご存じだろうか。ハムエッグを料理するのに、めんどりは卵を提供するのに対し、豚はハムになって自分の身を犠牲にする。したがって、めんどりは関わっているだけだが豚は真にコミットしている、というものである。インテルはこの寓話を具体化したようなものだ。インテルは研究センターと製造施設の両方の面でイスラエルに投資してきたが、その規模と影響力では右に出る者はいない。だが実のところ、インテルとイスラエルは「持ちつ持たれつの仲」なのである。数十年にわたって蓄積されてきたインテルの投入なしでは、イスラエルのハイテクを想像することは不可能だ。また同様に、イスラエルの貢献なしでは、今日あるインテルの姿を思い描くことはできない。モービルアイ、そして今回のハバナ・ラボの買収は、引き続きインテルとイスラエルの関係を広げ、絆を強め、繋がりを深めるだろう。

2. イスラエルのAI状況
インヴィディアのメラノックス買収に続く、インテルのハバナ・ラボ買収、そしてAI分野で活躍するイスラエルの新興企業が400以上あることを考え合わせると、イスラエルは事実上、AI開発の主戦場となっているのがわかる。しかもAIは、2020年代の主要テクノロジーとなる見込みだ。これらの買収が企業ニュースからグローバル規模の地政学までに幅広く影響してくるのはなぜかと言うと……

3. 米中テクノロジー冷戦におけるイスラエルの立場

…… AIは米中がテクノロジーで争う主な分野のひとつだからだ。インヴィディアとインテルがAIの開発競争で先陣を切る拠点にイスラエルを選ぶことで、米中の争いにおけるイスラエルの立場――米国側――は、あからさまな政府の介入なしで暗黙的に決められる。米中の争いが激化すればするほど、イスラエルの商業的および技術的選択肢は狭まることになる。

  1. スタートアップ戦略

ウィレンスキーは、イスラエルは有望な新興企業に対する権利を固く握り、幼少期に売却せず、イスラエルが所有する多国籍企業に成長させる必要がある、という考え方を否定した。彼の実績――そして彼が今までに売却した企業の実績――は、「連続起業家」であることのメリットを示している。また、イスラエルでの事業を拡大しながら企業を売却するのが完璧に可能――すなわち、いいとこ取り――なのを実証している。

  1. ハイテク新興企業

イスラエルの新興企業部門の長所と短所を他にもいくつか、ハバナ・ラボで見ることができる。

  • エンジェル投資家:すでにイスラエルにも活発な「エンジェル投資家」コミュニティがあり、かなりの財源(エンジェル自身、およびそのビジネスパートナーが所有)に加え、貴重な経験と、それにもまして大切なコネを提供している。起業家が連続起業家やエンジェルになるこの「ならわし」は、イスラエルのハイテクシーンに定着した重要な特徴だ。
  • 模範的存在:イスラエルの高校生や大学生の多くが、兵役や大学でハイテクキャリアに続く道や学科(ときには高等学校での専門学科)を専攻している。法律学校やビジネススクールへの入学申請は減っており、その反面、数学、物理学、コンピューターサイエンスの専攻志望者が増えている。これは、ハバナ・ラボのようなイグジットが盛んに話題となるたびに強まる傾向だ。
  • ボトルネック:人材の供給は増えたにもかかわらず、軍隊と民間ハイテク部門の両方で高度に有能な人材が極度に不足しており、問題が深刻化している。ハバナ・ラボは、イスラエルで必要条件を満たすプログラマーが見つからず、優秀な人材を引きつけようと、ポーランドのグダニスクで開発センターを開設するまでに至った。
    イスラエル政府には――実際に政府が存在する場合だが――高度外国人材が就労ビザを簡単に取得できるようにするなど、法案を採決して短期策を提供すると同時に、教育システムで実施するイニシアチブの規模と数を増やし、長い目で問題に取り組むことが求められる。
  • 軍と民間の交流、協力、競争:イスラエルのハイテクサクセスストーリーでもうひとつ重要な要素は――ハバナ・ラボはその素晴らしい実例だ――は、軍と民間部門の間で人とアイデアの行き来が盛んなことだ。友好的な共存と協力がある一方、両者間では特に「才能発掘」のための競争も激しい。トップ人材がハイテクの基盤を揺るぎないものとするからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

© Pinchas Landau201912

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